快適な住まいをつくる素材の選び方

「市川の家」の壁  シラスを原料とした左官材「中霧島壁」を塗っています。

家づくりにはとてもたくさんの素材が使われます。どんな素材を使うのかは、永く快適に暮らせる家づくりのためにとても大事なことのひとつです。

性能や費用、メンテナンス性、見た目など素材を選ぶ基準はたくさんありますが、その中でも大切なことは、住む人にやさしく、環境にもできるだけ負荷が少ないものであるということだと思います。つくる時のことはもちろん、廃棄される際にもできるだけ負荷が少ないものを選びたいものです。


そして、毎日の暮らしの中で気持ちがいいと感じられる素材であること。
それには、触り心地がよく、湿気を吸ったりはいたりする調湿性能もあり、見た目の風合いもいい自然素材はぴったりだと思います。

現在、価格が抑えられていて施工性がよいので、多くの家ではビニールクロスや合板フローリング、塩ビ製品などの建材が使われています。
それらは出来上がった時がいちばんきれいな状態で、時間が経つほどに劣化していく材料ですし、呼吸できない(通気性、調湿性のない)素材なので、いろは設計室では使いません。 できるだけ自然素材を使うようにしています。

また表面に見えている仕上げ材だけではなく、構造材や断熱材、防蟻処理など見えなくなってしまう部分についても、できる限り安心できるものを使ってつくっています。

自然素材にこだわるワケ
マンションリノベーション「荻窪の家」のダイニング。マンションでも自然素材を使います。

私が住宅設計の仕事をはじめた頃(1990年代中頃)は、まだ建築に使われる建材の規制がきびしくない時代で、まだあまり「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」という言葉が一般的ではありませんでした。

勤めていた設計事務所では、それ以前からシックハウス症候群や化学物質過敏症に悩む方に対しての勉強会や相談会を行ったり、雑誌で素材についての記事の執筆も行っていました。

素材にもこだわった住宅を設計していたため、実際に化学物質の影響やアレルギーで苦しんでいる方の住宅設計に携わる機会が多くあり、長い時間を過ごす家に使われる素材の重要性を、仕事を通して日々感じていました。特にそれらの症状のない方でも、家の作り方や使う素材によって、その後の生活の快適さが大きく違ってくるということを、これまでの家づくりを通して実感しています。

そしてそういった健康の問題もありますが、プラスチックや塩ビなどの化学的な建材よりも、単純に自然素材の方が気持ちがいい、ということも大きいです。無垢の床板は足触りよく、木や土、紙の壁は調湿性に優れていますので、気持ちのいい家づくりには最適だと思っています。
そして自然素材、特に無垢の木は時間を経るごとにどんどんと色が変化し、艶が出て味わい深くなっていきますので、長く大切に使っていくことができると思います。

たくさんある素材の中でも特によく使っている素材、おすすめする素材について、以下具体的にご紹介します。

床材
事例「雪谷の家」 床は高知県産の杉無垢材(中千木材)

床はいちばん人が触れることが多い部分なので、見た目の好みだけではなく、触り心地や温かさなどの感触のよさが求められます。
また、台所や洗面所、トイレなどの水廻りでは、水に対しての強さや掃除のしやすさなども重要です。

無垢床材

無垢床材は樹種によって硬さや色などの違いはありますが、どれも自然素材ならではの肌触りのよさがあります。大きく分けると「針葉樹」と「広葉樹」があります。

いろは設計室で多く使っているのは、国産の針葉樹である杉(スギ)と桧(ヒノキ)です。他には赤松(アカマツ)、唐松(カラマツ)、椹(サワラ)などがあります。できる限り国産材を使用するようにしています。
(国産材を使う理由などについては、こちらをご覧ください。)
杉は日本各地に産地がありますが、それぞれ色味や節などに違いがあるので、実物を見てから状況や好みにあったものを選んでいます。

特に杉はやわらかい木なので傷がつきやすいということはありますが、そのやわらかさが足にやさしく、床に座ったり寝転んだりしても痛さが少ないです。広葉樹よりも空気を多く含んでいるので温かく、冬場でもヒヤッとした冷たい感じが少ないです。
一方ナラやチーク、オークなど広葉樹の床材は、針葉樹に比べて硬いので傷がつきにくいです。

樹種によって家のイメージがかなり変わってきますので、サンプルを確認して、触り心地や見た目の好み、その部屋の使い方などに合わせて選ぶのがいいと思います。

室内については無垢の木の自然のままの色をいかしたいので、塗装は色をつけないオイル塗装としています。

事例「三輪野山の家」 床は唐松の30ミリの厚材

色や硬さ、触り心地、価格などによって好みのものを選ぶことになりますが、1軒の家の中ですべて同じ床板にせずに、部屋によって違うものを使うこともあります。

例えば、家全体の床材は杉無垢材にして、子供部屋や書斎ではキャスター付きの椅子を使いたいということで、硬い広葉樹の床材にしたこともあります。
同じ樹種の木でも、板幅や節の有無などのグレードによって金額が変わってくるので、部屋によって使い分ける場合もあります。
(板の幅によって、部屋の印象はかなり変わります。)

また無垢材の場合は、家の完成後にも木が反ったり割れたり隙間があいたりすることはあるものですが、できるだけそれが少なくなるように乾燥のいい材料を選ぶことも大切です。

タイル

玄関や土間など土足で入る場所や、洗面所やトイレ、キッチンなど水はねの多いところや浴室などには、タイルを使うこともあります。
様々な機能をもったタイルがありますので、色柄の好みだけではなく、その場所によって必要な機能のあるものを選ぶと、より快適になることと思います。


トイレ:抗菌タイル
他の場所よりも床に汚れや菌がつきやすい場所なので、トイレ用の抗菌タイルを使用しています。
具体的にはLIXIL「レストールキラミック」です。一般の住宅では水を流して掃除をすることはほぼないのでドライ掃除タイプで、できるだけ目地が少なくなるように40センチ角のものを張っています。
用途によって水を流して素地した場合はウェット清掃タイプを選んでください。

洗面所、浴室:サーモタイル
冬でも裸足になることが多い場所なので、できるだけ冷たく感じることが少なくなるように、LIXILの「サーモタイル」を使用しています。
これは内側に微細気泡を入れて断熱層とすることで、一般的なタイルよりも足から逃げる熱を少なくしているタイルで、触れた時にヒヤッと感じにくくなっています。

色については住む方の好みもあるので絶対ではないですが、浴室の床の場合は皮脂や石鹸カスなどの汚れが乾くと白っぽく残りやすいので、黒やグレーなど濃い色のタイルや石は使わないことが多いです。

事例「A邸」 トイレの床は抗菌タイル(LIXIL)

リノリウム

トイレや洗面所などの水廻りには、リノリウムを使用することもあります。
リノリウムは一見ビニールのように見えるかもしれませんが、亜麻仁油やジュート、石灰岩などの天然素材のみからつくられる床材です。抗菌効果、抗ウィルス効果が認められているため病院や保育園などにもよく使われています。

またアンモニア臭を3時間でほぼ0%に脱臭する効果があるとのことなので、トイレで使用するのにはとても適しています。少しクセのある匂いがあり、これは時間が経つにつれてだんだん消えていきますが、気になる人もいるかもしれませんので、サンプルで匂いを確認した方がいいと思います。

「マーモリウム」(田島ルーフィング)を使用しています。
(下記の写真はABC商会のリノリウムですが、現在販売されていません)

事例「初台の家」 トイレの床はリノリウム張り

玄関や浴室の床には石を張ることもあります。
浴室には濡れた時の淡青緑色がきれいな「十和田石」や「福光石」を使用しています。どちらもなめらかで肌触りのいい表面であるのに、水に濡れても滑らないという特徴があるため、浴室の床に使用するのにとても適しています。

事例「三郷の家」 浴室の床と浴槽の立ち上がり壁は十和田石
事例「三輪野山の家」 浴室の床は福光石
壁材・天井
事例マンションリノベーション「大宮の家」 壁は珪藻土塗り(湯布珪藻土)

壁や天井はその部屋の使い方によって、調湿性や表面の強度、メンテナンスのしやすさ、費用などによって使い分けています。
例えば、リビングや寝室など長い時間を過ごす場所では調湿性の高い左官材料を、子供が小さい場合の個室などは後から張り替えが比較的簡単な壁紙張り、収納内部など後から棚を追加したり釘を打ったりしたくなるような場所は板張り、などのようにしています。

珪藻土

最近ではコースターやバスマットなどの製品になっているものもあるので、使っている方もいるかもしれません。
藻類の一種である珪藻の殻が堆積した土を原料とした左官材料です。珪藻土は多孔質の土で吸・放湿性にすぐれているので、湿度が高い時には湿気を吸収してカラッとさせることができます。また火にも強い材料です。同じ左官材料であるしっくいよりも価格が高い場合が多いです。

珪藻土は細かい粒があるため、少しざらっとした仕上がりになります。
いろいろなメーカーから販売されていますが、産地などの違いだけではなく、珪藻土を固めるために混ぜているその他の材料にも違いがあります。天然素材100%でつくられているものもあれば、樹脂や人工着色料がなどが入っているものもあります。樹脂がたくさん入っていれば固まりやすく、仕上がってからも欠ける心配が少なくなりますが、その分あまり吸・放湿性が高くないものもあるので、その点も気にして選んでみてください。

珪藻土の一例
「エコクィーン」 日本ケイソウ土建材 株式会社
「湯布珪藻土」 日本ハウジング 株式会社

薩摩中霧島壁
事例「初台の家」の寝室の壁は左官仕上げ仕上げ「薩摩中霧島壁」。
1面だけ濃いグレー色を塗っています。

シラス(鹿児島湾北部を火口とする姶良カルデラの大噴火によって発生した火砕流が堆積した火山噴出物)を主原料とした左官材料で、吸・放湿性能や消臭機能があります。塗り厚が2.5ミリと5ミリの2種類がありますが、主に5ミリの方を使っています。

色も豊富に用意されているので、その家の雰囲気や好みにあわせて選ぶことができます。濃い色もあるのですが、乾いた際に色ムラが出やすいので注意が必要だと思います。細かい粒が入っているため、少しざらっとした仕上がりになります。

漆喰(しっくい)
事例「雪谷の家」 壁は漆喰塗り

漆喰は石灰岩や貝殻を焼いて粉末にしたものに海藻糊と麻スサ、水を混ぜて練り上げた左官材料で、古くから日本だけでなく世界中で使われてきた材料です。蔵やお城に使われていることでもわかるように耐火性、耐久性に優れた材料です。

漆喰は強アルカリ性のため、カビやウィルスを分解してくれる性能があるので、抗菌、消臭効果があります。また吸・放湿性があるので湿度の調整をしてくれますが、その効果としては上で紹介している「珪藻土」や「薩摩中霧島壁」の方がより高いです。
珪藻土や中霧島壁とは違って、白くつるっとした表面の仕上がりになり、全体的に落ち着いた雰囲気の空間になります。

壁紙

左官塗や板張りに比べ費用が抑えられるのが壁紙(クロス)貼りです。
一般的に住宅の壁や天井に多く使用されているのはビニールクロス(塩ビ製)ですが、これは通気性がないので、いろは設計室では使用していません。

壁紙の中でよく使用しているのが、越前和紙をベースにした和紙壁紙の「玉紙」(株式会社 丸和)です。素材にも加工にも有害物質や化学物質は使用されていません。和紙なので通気性があり、その上撥水性(撥水加工には珪素を使用)があるので、水を弾き、汚れがつきにくいのもうれしいところ。
色や表面の仕上げ方の種類が多いので、住む方の好みや部屋の雰囲気にあわせて選ぶことができます。

「三郷の家」の居間。壁は左官仕上げ「薩摩中霧島壁」、天井は壁紙貼り「玉紙」
「日進の家」のダイニング。襖紙として「玉紙」を使用
自然素材のデメリット

木や土、紙などの自然素材は、湿気を吸ったりはいたりする性能があります。
そのため梅雨時期には木材が膨張して建具(扉や引き戸)が開きにくくなったり、冬は乾燥して床板の隙間が広くなったり、左官壁にヒビが入ったりなどが起きることがあります。

あまりにもひどくなれば補修や調整が必要になりますが、数年の時間を経てだんだんと落ち着いてきますので、素材が生きているために起きることと思ってある程度はおおらかに許容していけるといいと思いますが、それが気になる場合には自然素材は使わない方がいいと思います。

自然素材を使った家づくりの費用

使う素材にもよりますが、一般的な家によく使用されている合板フローリングやビニールクロス、ペンキなどでつくる家と比較すると自然素材の方が高くなります。素材自体もですが、それを工事する職人さんの手間についても、自然素材を使う場合の方が高くなるものが多いです。

ですが、そんなに極端に高価なものだけでもないので、使う場所によって種類を選んだり、生産者が直接販売しているムダな流通が少ない材料を使うなどの工夫をして、できるだけコストを抑えるようにしています。

自然素材のメンテナンス

室内の床材やカウンターなどの木部については、使用した塗料にあわせて、日常にも簡単に使用できるメンテナンスワックスの使用をおすすめしています。
和紙の壁紙は、ビニールクロスと比較すると汚れがつきやすく、左官の壁は固いものをぶつけると傷がついたり、欠けたりする場合もあります。汚れの種類や程度にもよりますが、ある程度は補修は可能です。

具体的なメンテナンス方法については、それぞれの素材によって異なりますので、それぞれの家ごとにご説明させていただいています。

私自身は、自然素材のメンテナンスはそんなに大変なものではないと思っていますが、新建材と比較すると手間がかかるものもあると思いますので、自然素材特有の傷や汚れのつきやすさが気になりすぎる方や神経質な方には、自然素材は向いていないかもしれません。

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