住宅の性能の中で、断熱性能は重要なことのひとつ。断熱性能が高いと室内は外気の影響を受けにくくなるので、冬は暖かく、夏は涼しい快適な住まいとなります。
その断熱性能を表す基準が「断熱等性能等級」です。2022年には新たな等級が設けられたこともあり、気になっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では住宅の断熱と、その基準である「断熱等性能等級」についてお話しします。
住宅の断熱
住宅において「断熱」とは、室内と室外の熱の移動を遮断して、外気温が室内に伝わりにくくすること。具体的には壁、屋根、床、窓などの断熱性を高めて、住宅内外の熱の移動を少なくします。
住宅の断熱性能は、毎日の暮らしに大きな影響があります。まずは断熱性能が高い住宅に住むと、どんな影響があるのかを紹介します。
断熱性能が高い住宅のいいところ
快適な室内環境で過ごせる
断熱性能が高い住宅は、室内が外気温の影響を受けにくいので、快適な状況で過ごしやすくなります。夏は涼しく、冬は暖かい室内環境になり、エアコンを効率的に使うことができます。
光熱費が抑えられる
断熱性能が高い住宅は、外の温度の影響を受けにくいので、室内環境を一定に維持しやすくなります。エアコンなどの空調機を使う季節であっても、少し稼働させるだけで冬の温かさや夏の涼しさを感じられ、温度を維持できるようになるため、光熱費を抑えることができます。
最近では電気代が高騰していますし、地球環境保護の点から考えても、今後はより一層できるだけエネルギーの消費量を少なくすることが大切になってきます。
ヒートショックから身を守る
ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧や脈拍が大きく上下に変動することで起きる、心筋梗塞や脳卒中といった血管の疾患のことです。急に心臓や血管に大きな負担がかかるために起きてしまいます。
特に冬場の浴室での発生が多いので、ヒートショックを防ぐには家全体の断熱性を高め、家の中での温度差を少なくすることが必要です。
健康の改善が期待できる
断熱性能が高い住宅に引っ越したことにより、せきやのどの痛み、手足の冷え、気管支喘息などの症状が改善が見られたという健康調査の結果(※)があります。大半の症状に明らかな改善が見られ、特により断熱性能の高い住宅へ引っ越した人ほど改善率が高くなっています。
また、断熱性能を高くすると室内での行動が活発になり、日常の中で運動量が増える傾向にあるため、健康にいい影響をもたらすことが期待できます。
※参考サイト:断熱住宅.com
断熱の性能を表す数値や基準について
断熱等性能等級とは
「断熱等性能等級」とは、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品格法)に規定された、省エネ性能を表す等級のことです。
2022年4月には「等級5」、10月には「等級6」と「等級7」が新設されました。1~7までの7段階の評価となっていて、数字が大きいほど断熱性能が高いことを表しています。
等級7 | 2022年10月制定。HEAT20のG3グレード相当 暖冷房にかかるエネルギー消費量を、等級4と比較して概ね40%削減可能なレベルの性能 |
等級6 | 2022年10月制定。HEAT20のG2グレード相当 暖冷房にかかるエネルギー消費量を、等級4と比較して概ね30%削減可能なレベルの性能 |
等級5 | 2022年4月制定。ZEH基準相当 断熱材や窓ガラスなどは、等級4以上に高い性能が必要 |
等級4 | 1999年制定「次世代省エネ基準」 壁や天井の断熱だけではなく、開口部(窓や玄関ドアなど)も対象 |
等級3 | 1992年制定。壁や天井に関して、一定の断熱性能を有する |
等級2 | 1980年制定。 |
等級1 | 上記以外 |
2025年度以降は、すべての新築住宅に等級4以上が義務化されます。2022年4月まではいちばん高い基準であった等級4が、もうすぐ最低限の基準になるのです。
断熱性能を表す値「UA値」
住宅の断熱性能を表す指標が「外皮平均熱還流率(UA値)」です。UA値は、室内と外気の熱の出入りのしやすさを表す指標のこと。住宅の外皮(壁、屋根、床、窓などの外気に接している部分のこと)から逃げる熱の損失を合計し、外皮面積で割って求めます。この数値が小さいほど断熱性能が高いことを示しています。
日本は寒冷地と温暖地の気候の差が激しいので、全国を8区分に分けた地域の区分ごとにUA値の基準が定められています。
(夕張など) | 1地域(札幌など) | 2地域(盛岡など) | 3地域(仙台など) | 4地域(水戸など) | 5地域(東京など) | 6地域(熊本など) | 7地域|
等級7 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.26 | 0.26 | 0.26 |
等級6 | 0.28 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.46 | 0.46 | 0.46 |
等級5 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 |
等級4 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 |
等級3 | 0.54 | 0.54 | 1.04 | 1.25 | 1.54 | 1.54 | 1.81 |
(夕張など) | 1地域(札幌など) | 2地域(盛岡など) | 3地域(仙台など) | 4地域(水戸など) | 5地域(東京など) | 6地域(熊本など) | 7地域|
等級7 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.26 | 0.26 | 0.26 |
等級6 | 0.28 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.46 | 0.46 | 0.46 |
等級5 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 |
等級4 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 |
等級3 | 0.54 | 0.54 | 1.04 | 1.25 | 1.54 | 1.54 | 1.81 |
日射熱を遮る性能を表す値「ηAC値」
住宅の温熱環境をよくする上では、日射の影響も大切なことです。夏に室内の温度が上昇する大きな要因は、外からの日射熱。
そのため夏は日射を遮り、室温の上昇を抑えることで、冷房に必要なエネルギーを削減することがきます。
日射を遮ることを「日射遮蔽」といい、住宅の日射遮蔽性能を表す指標が「冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)」です。室内に入る日射熱の量を外皮全体で平均した値で、この数値が小さいほど日射遮蔽性能が高いことを示しています。
断熱性能を高めるためには
住宅の断熱性能は、選ぶ断熱材や窓の種類、方法によって違ってきます。
断熱材
断熱材には様々な種類があります。最も一般的に使われている「グラスウール」や「ロックウール」など繊維系の断熱材、「セルロースファイバー」などの吹込み式の断熱材、「ポリスチレンフォーム」「フェノールフォーム」などのボード系の断熱材、「ウレタンフォーム」などの現場で吹き付ける発泡式の断熱材などがあります。
それぞれの断熱材は、熱の伝わりやすさの性能(熱伝導率)が違うので、求める断熱性能に適した厚さのものを使用します。
断熱材によって必要な厚さや施工方法、金額がそれぞれ違いますし、工事のしやすさ、湿気や火に対しての性能も違います。家全体のコストバランスを考えながら、住む人が住宅に求めるものにあわせて、何を選ぶかを選択しましょう。
また、断熱性能は断熱材だけではなく、内外装材、下地材、気密シートや外壁の通気層の有無などの組み合わせによっても違ってきますので、断熱材だけにこだわるのではなく、建物全体のバランスを考えることが大切です。
窓
窓は取り付ける位置や目的にあわせて、適切な開閉方式やサイズ、材質、性能、費用を検討して決めていきます。
断熱材と同様に、窓やガラスにも多くの種類があります。住宅の中で熱の出入りがいちばん大きいのは窓やドアなどの開口部ですので、この窓の性能を高めると室内の快適性がアップします。
サッシの材質
住宅で一般的に使われている窓には、サッシ(フレームの部分)がアルミ製の窓、アルミと樹脂の複合窓、樹脂製の窓があります。樹脂製の窓は、アルミ製の窓に比べて熱の伝わり方が約1/1400。樹脂製の窓の方が熱を伝えにくいので、断熱性能が高くなります。
その他には木製の窓もありますが、アルミ製や樹脂製の窓よりもかなり高価なので、一般的にはあまり使われていません。木材は樹脂よりも熱を伝えにくい性質のあるので、木製窓も断熱性の高い窓です。
ガラスの枚数
サッシの材質だけではなく、そこに組み合わせるガラスによっても、断熱性能が大きく変わってきます。
単板ガラス(ガラス1枚)、複層ガラス(ガラス2枚)、トリプルガラス(ガラス3枚)があり、ガラスとガラスの間の空気の層の中に入っているガス(アルゴンガス、クリプトンガス)によっても断熱性能に違いがあります。空気層の厚さによっても断熱性能が変わってきます。
ガラスの表面加工
現在多くの住宅で使用されている高性能なガラスが「Low-Eガラス」です。ガラスの表面に薄い金属膜(Low-E膜)をコーティングされていて、それによって紫外線や日射熱などのカット率が高まり、断熱性能や遮熱性能が向上します
通常Low-Eガラスは複層ガラスやトリプルガラスを構成するガラスとして使用され、夏場の遮熱性を重視した「遮熱タイプ(日射遮蔽型)」と冬の断熱性を重視した「断熱タイプ(日射取得型)」の2種類があります。
窓を取り付ける位置の方位や目的にあわせて、2種類のうちどちらを使うかを選びます。
住宅の断熱性能 まとめ
今回は住宅の断熱性能についてお話ししました。断熱性を高めることで快適性が高まりますが、その分費用が多くかかりますので、どのくらいの性能にすればいいのか悩む方も多いかもしれません。
断熱性能の等級について、2025年度以降はすべての新築住宅に等級4以上が義務化されることになります。
これから住宅の新築やリノベーションをするのであれば、予算とのバランスを考えながら、最低でも「等級5」の性能を、予算的に可能であれば「等級6」をクリアした性能にしておくことを推奨します。
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